祈りとあの日のきらめく空と

初めての出産と、18トリソミーと診断された我が子あゆむのこと。           あゆむは2019.1.24にこの世に生まれ、そしてお空に帰っていきました。     地上で生きる天使ママの日記。

あやういバランス 『手紙魔まみ、夏の引っ越し(ウサギ連れ)』(穂村弘/小学館文庫)

こんばんは、ナユリゼです。

 

元々短歌の世界が好きで、たまに自分でも作ったりしていた過去を持つわたしですが、

(最近は作成は色んな意味で出来ずにいます・・・)

穂村弘さんのこの本が発売当初くらいから気になっておりました。

もう10年以上昔のことです。

で、たまたま図書館で文庫化された本書を見つけたため、借りてみる。

 


 

穂村さんの短歌作品は割とぶっとんだものが多いのですが、

本書の作品群は特にその度合いが高いように思います。

文庫化は単行本発売の13年後にされたようですが、

その時のあとがきにて穂村さん自身も

『二度と書けない。今となっては、もうこの世界に近づくことも難しい』

と書いておられるほどです。

すごい特殊であやうい世界観。

 

設定としては、もともとは穂村さんのファンだった「まみ」という少女が

ものすごいハイペースで手紙をよこしてくるけど、そのどれもが面白い。

だから本にしてみたよ。

というもの。

歌集ではありますが、歌のすべてがまみの手紙である、という1冊なのです。

わたしは1冊が丸ごとテーマを持っている、

こういう歌集が大好きです。(もちろん、めったにないのですが)

 

いくつか目を奪われた歌たちを印象付きで引用してみます。順不同。

あ、ちなみに短歌って 5・7・5・7・7の三十一字(みそひともじ)が基本です。

迷子にならない道しるべに、一応書いときます。

 

 

 

『可能性。すべての恋は恋の死へ一直線に墜ちてゆくこと』

 ( ↑ わりと平静に読めます。リズムも良い。)

 

『金輪際、つぶやきながらうっとりと涙腺摘出手術を想う』

 ( ↑ お、おお・・・そうか、うっとりか・・・)

 

『それはそれは愛しあってた脳たちとラベルに書いて飾ってほしい』

 ( ↑ なんかわかる気もする。)

 

『こんなの嫌、全ぶ嘘でしょう?こんなの嫌、全ぶ嘘でしょう?嫌』

 ( ↑ なんかわかる、うん。)

 

わたしなりに「恋」っぽいテーマのものを選んでみました。

昔むかし、「少女」だったことがあるので、

そのころを思い出しつつ、「恋」と混ぜつつ選んでみましたよ。

(ワア、ハズカシイ)

続けてもう数首。

今度は死を意識して選ぶ。

 

『未明テレホンカード抜き取ることさえも忘れるほどの絶望を見た』

 ( ↑ テレホンカードって今知ってる人減ってるんだろうなあ・・・)

 

『恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の恋人の死』

 ( ↑ 全部コイビトですよ?ヘンジンと読まないように。)

 

『わからない比べられないでもたぶんすごく寒くて死ぬひとみたい』

 ( ↑ 近い、と思った。)

 

『ウサギの骨(粉)をなめなめいくつものよるひるあさをすごすのでしょう』

 ( ↑ 続・近い、と思った。)

 

『なんという無責任なまみなんだろう この世のすべてが愛しいなんて』

 ( ↑ 責任ってときにいやなもの。)

 

 

まあ、ここに引用しただけでは全然本書が伝わらないのは百も承知ですが、

全編に少女の恋と性と生死と自分への興味とエネルギー、

それゆえのあやうさを感じます。

 

昔むかし、「少女」だったことがあるので(2回目)、

このあやうさ、覚えがある気もするんです。

自信なんて全然ないのに、

自分が「少女」だという自信はあって、

それゆえ突き進んでしまう、というようなあやうさ、

傷ついて、それでも生還してくるようなしたたかさ。

 

少女だったのはもうずいぶん昔のことなので、詳細は覚えてませんけどもね。

でも、少女だったわたしが、今では子供を産んで、

その子を亡くして、

そうして少女だった頃を思い出すと

ずいぶん遠いところまで来たものだ・・・

としみじみ思います。

本当に遠いなあ~・・・・・

 

少年はどうなんですかね?

わたしは少年だったことはないので、ずっと興味深く思っている。

(著者の穂村さんは男性なので、少女だったことはないはずなんですけどもね)

わたしが思うに少年は、あやうくて生命力もあるけども、

少女ほどしたたかではないよね、と思ってしまうんですよね。

「したたか」ってあまり良い意味では取られないけれど、

わたしは頼もしいと思う。

少年のしたたかさは少女ほどは許されないところがまだあるから、

うまいことやってくれよ、と応援しています。

 

わたしもあゆむにそう言ってみたかった・・・!

 

挿絵がタカノ綾さんというアーティストなのですが、

まさにポップで可愛い現代の少女のあやうさ、したたかさ、

どこかに落ちていきそうなギリギリのバランスの中での光を描いていて、

とても魅力的。

イケナイものを見てしまったかのようないたたまれなさも

本書にぴったりです。

 

短歌なんて自分には関係ない、

少女なんて自分の生きてるテリトリーにはいない、

と思っていたような方にもおすすめです。

普通の「短歌」や「少女」の本とは違いますので。

文章に常に意味を求めてしまうようなタイプの方も、

たまには文章を感覚として感じてみるのも楽しいですよ?

 

みなさんの宝物が守られますように。