氷と闇夜のこと(『花と流れ星』(道尾秀介/幻冬舎文庫))
こんばんは、ナユリゼです。
こんな本を読みました。
本作は
「霊現象探求所」という事務所を構えている真備(まきび)、
その助手で、死んでしまった真備の妻の妹でもある凛、
真備の友人で、売れないホラー作家の道尾、
の3人を中心として様々な「事件」が起こる、連作短編集です。
元々はこの本の前に2作、長編があるのですが
わたしはそれを知らずに本書を図書館にて見つけて読了。
(前作を読んでいなくても十分に理解でき、楽しめます)
前2作はホラー色が強めらしいので、
個人的にはこの3冊目から導入できたのはラッキーだったように思います。
登場人物の魅力が存分に感じられたので。
ちなみに1作目(著者デビュー作)と2作目はこちら↓
そのうち読むぞ!
本作はミステリーの分類に入ると思うのですが、
人の気持ちを非常にていねいに描いているところが好感が持てます。
とてもやさしい。
傷ついている人の気持ちをきちんと受け止めて、
でも無意味に甘やかしすぎない。
著者にはきっと
深い悲しみときちんと向き合ってきた経験があるのではないかな
と感じます。
結婚したばかりの妻を交通事故で喪った真備と
同様に祝福したばかりの姉を喪った凛、
二人の間にはある共通の思いがあり、
それが本書の最後の一篇『花と氷』で描かれます。
凛が、大切な友人の結婚式に招かれる。
真備はそれを「楽しんでおいで」と見送る。
凛のモノローグを引用すると、
『結婚式や披露宴で微笑み合っている二人。幸せそうな若い夫婦。そういった人たちを見ると、祝福する思いの片隅に、ある別の感情が転がっていることに気づいてしまうのだ。それは冷たい、一粒の氷のような思いだった。
どうして世の中には幸運と不運があるのだろう。どうしてこの人たちばかり幸せなのだろう。どうして不運は、姉や真備を選んだのだろう。
姉が死に、真備との短い夫婦生活に唐突な句点が打たれてから、もうずいぶん経つ。なのに、胸に転がったその氷をいつまでも取りのけることができずにいる自分が、凛は哀しかった。』
ああ、
わたしはこの気持ちを知っている。
そう思いました。
あゆむが亡くなったあとしばらくは
氷
どころか
氷山
というくらいのそんな気持ちがありました。
そして今わたしはこの本の最後にあった、こんな文章と
似たような心境でいます。
『過ぎていく時間と足並みを揃え、思い出は徐々に遠ざかっていく。そんな毎日の中で、胸にたくさんの花を咲かせて暮らしている人もいる。いつまでも溶けない氷を哀しんでいる人もいる。(中略)
どちらがいいとは、きっと言えないのだろう。花は綺麗だけど、氷だって大切な思い出の証だ。捨てずにゆっくり溶かしてやれば、だんだんと水に変わってくれる。
その水で、花も咲く。』
氷はたぶん、完全に溶けることはないんだと思う。
けれども溶けた分の水はものすごい栄養を含んだ水で、
きっと綺麗な花が咲くだろう。
花も流れ星も綺麗だ。
いくつも咲き、いくつも流れる。
けれども深い思いがあれば、
そのたったひとつも特別になる。
みなさんの宝物が守られますように。