祈りとあの日のきらめく空と

初めての出産と、18トリソミーと診断された我が子あゆむのこと。           あゆむは2019.1.24にこの世に生まれ、そしてお空に帰っていきました。     地上で生きる天使ママの日記。

力強い光 『八月の光』(フォークナー/光文社古典新訳文庫)

こんばんは、ナユリゼです。

 

ずーっと、読もうかなあ

と思いつつ、タイトル的に

「8月になったら読もう!」

と毎年思い続けてはいつしか秋に・・・

 

ということを繰り返していたので、

今年は思い切って6月から準備を始めた本を

先日読み終わりました。

まあ、8月まで引っ張らなくても別に良いだろう、そもそもね。

 

というわけで

 

八月の光』(フォークナー/黒原敏行:訳/光文社古典新訳文庫

 

を読みました。

 

八月の光 (光文社古典新訳文庫)

八月の光 (光文社古典新訳文庫)

 

 

 

 

うーん・・・一言でいうと、

わたしにとっては非常に難解だった。

 

なぜかというと、

日本という小さな島国で、しかも現代に暮らしていると

感覚的に理解しづらいような要素がたくさんあるため。

宗教的にも人種的にも。

 

この物語は

ちょっと一筋縄ではいかないような何らかの事情を抱えた人間が

数人出てきて、

それぞれについて追っていく群像劇の形式をとっているのですが、

やがて起こった凄惨な事件をめぐり、

彼らは各々の人生や考えに基づき行動し、

時には接触もし、複雑な話を織りなしていく。

 

最初から最後まで会うこともない人物同士もいますが、

物語の語りの中で実は巧妙に関連づけられていたりなど、

おそらく読み込むほどにいろんな解釈ができる一冊かと思います。

 

それゆえに、翻訳者や読み手によっても

全く違った物語になってしまう可能性もはらんだ作品です。

ほんと一筋縄ではいかないと思う。

 

登場人物の1人がある場面で

 

『いろんなことが起きるからだ。起こりすぎるからだ。そういうことだ。人間というやつは自分に耐えられることや、耐えなければならないことだけでなく、それ以上のことをやってしまう。そういうことなんだ。だから厄介なんだ。どんなことでも結局耐えられてしまうということが。』

 

と思考していますが、

これはこの物語のようなことが起こった根本的な原因、とも言えます。

そして人間が生きていくうえでの逃れられない宿命でもあるのかも。

 

例えば、

アイデンティティとか

人を傷つけないための自分の在り方とか

未来への期待の欠如とか

 

こういうことは人間でなければ考えない。

自分のもとにやってきた「耐えなければならないこと」以外にも

なぜかわざわざそういうことを考え、

しかもそれらは答えがないので、わざわざ延々と苦しんだりする。

そんなこと考えなくても生きられるのに本当に厄介だ。

そして

「どんなことでも結局耐えられてしまう」のだからやりきれない。

(結局耐えられない、こともないとは言えないのですが余計やりきれない)

 

やりきれないけど、

それがまた人生なのだ、と思うと生きられたりするので

そこもさらに厄介ですよね。

厄介で、愛しい感じ。

 

登場人物は複数ですが、

たった1人だけ異色の輝きを放つ人物がいます。

それはリーナという若い女性です。

両親が亡くなって、

顔も覚えてない、年の離れた兄の家庭に身を寄せ

数年暮らしますが、

妊娠し、相手の男にも逃げられ、

家で辛く当たられたため、身重の身体で旅に出ます。

 

リーナは男に逃げられたということを断固認めません。

けれども男を責めることも積極的にかばうこともしません。

ただ、淡々と、大きなお腹を抱えて

男を追う旅をします。

それは単に「お腹の赤ちゃんのお父さんだから」です。

男を愛しているから、ではないのです。

そして責任云々ということでもない。

言ってみれば本能的なもの。

(でもこういうのは男性には理解できなくて怖いだけなんだろうなあ)

 

リーナは

この物語の導入部にも最終部にも登場する最重要人物です。

でも彼女のモノローグはほぼありません。

あっても

単純でのんびりした短いものだけ。

 

彼女の存在は本書の救いです(笑)

 

彼女が「子どもを産む若い女性」だからなのかもしれない。

リーナは終始何も変わりません。

子どもを産んだ後も何も変わりません。

いつだって

自分と子どもの居心地の良い状態になるように

未来に向かって旅をするだけ。

今を「めぐりあわせ」と思うだけ。

 

リーナには過去にこだわる気持ちがほとんどなく、

概ね現在と未来しか見ていないように感じられます。

 

他の登場人物が概ね過去しか見ていないのと対照的です。

 

概ね現在しか見ないようにしていたバイロンとの組み合わせは

なかなか楽しみなものではないかと思います。

その未来を知るすべはありませんけども。

 

暗闇と思っても、きっと八月の光であれば柔らかく照らしてくれるのではないか。

力強い光。

 

皆さんの宝物が守られますように。