大切な、何か優しいもの 『まっくらな中での対話』を読んで
こんばんは、ナユリゼです。
こんな本を読みました。
『まっくらな中での対話』(茂木健一郎withダイアログ・インザ・ダーク/講談社文庫)
タイトル初見で、心理学的な本なのかな?という印象。
そしてなぜか怖いような印象も持ちました(「ダーク」だから?苦笑)。
読んでみたら全然違いましたが。
『ダイアログ・インザ・ダーク』
とはドイツで生まれた
”ソーシャル・エンターテインメント”
だそうです。
文字通り、
暗闇での対話。
みなさんは
「まったくの暗闇」
に一定時間いた経験はあるでしょうか?
わたしはありません。
まったくの暗闇、とは
文字通り全く光がなく、
目が慣れてきても何も見えないほどの闇のこと。
それほどの闇には
少なくともわたしは物心ついてからは
遭遇していない気すらします。
すぐに脱出してしまって、
覚えてもいないだけなのでしょうか?
消防法の影響もあるのでしょうか?
そんな現代において
まっくらやみを作り出し、
1時間~1時間半の間
アテンドスタッフの導きと
自分たち本来の聴覚・嗅覚・触覚・味覚を使って冒険する!
という興味深いイベント、
それが
「ダイアログ・インザ・ダーク(DID)」。
本書は
それを日本にて行おうと努力し、実現し、
開催し続けてもいる
志村季世恵氏と
脳科学者でDIDに魅せられた
茂木健一郎氏の対談、
そしてアテンドスタッフとしての
当時(2011年)の活躍メンバー3人
(いずれも視覚障害者)
も交えた座談会を収録した「対談本」です。
本書を読んで感じるのは
「わたしは今までいかに五感を意識せずに生きてきたか」
ということ。
そして、そのうちのたったひとつでも意識しただけで
ものすごく世界が変わるであろうということ。
「ダイアログ・インザ・ダーク」
の体験者は
まったくの暗闇で過ごすだけなのに
とても癒され、色々なことに気づく、
と言います。
でもそれはそうだろう、
と読んでるだけで思えるくらいに
わたしは五感が鈍っているかなという気がしますね。
視覚 → 電子的な色々、活字的な色々を見すぎ。しかもコンタクトレンズ
聴覚 → 色々聞いてない
嗅覚 → あちこちから色んな匂いが漂ってくるので極力気にしない。
味覚 → まずくなければまあ良い
触覚 → 触り心地がひどくなければひとまず良い
大胆に言い切ってしまえば、
現代日本の、特に都会の人間はほぼ例外なくこんな感じだろうと思います。
(※意識して好ましいように改善してる方は除く)
だからこそなのか
ダイアログインザダーク
を体験した方は
とても癒されるそうです。
なんかそれだけでも体験してみたくなる。
この本は対談本なのですが、
なぜか読めば読むほど
心の底にある、とても大切な何かに
あと少しで気づけそうな気がしてくる
もう少しでその大切な何かに触れる気がする、
そんな切ない、もどかしい、幸福のようなものを感じます。
これはいったいなんだろう。
とてもふしぎです。
視覚を遮断された彼らならではの文化、
それは気づけないほどの日常のことなのだけれど、
この本の中で知ることで、
あっ、これは何かとても大切なことだ、
でもそれを言語化できない!
でも絶対に大切なのに!
そのもどかしさも愛しい感じ。
2か所ほど抜粋してみます。
『たとえば、我が家の猫の写真を撮ってAさんに見せたら、「縞模様がきれいな猫だね」と言ってくれたとします。次に同じ写真をBさんに見せたら、「しっぽがまっすぐで長いね」という感想をくれたとする。
人の感想って必ず違うものだから、同じものを見せても、AさんとBさんでは絶対に別の感想を持っているはずなんです。それを僕は知ることができる。
こういうのって、もし僕の目が見えたとしたら、自分の目で見て納得して、それで終わりだと思うんですよ。でも、いろんな人に見せていくことによって、自分の飼っている猫についてもいろんな印象を知ることができる。
自分の撮った写真を10人に見せたら、僕は10人分の目を持っていることになるんです。それが僕にとっての、写真の面白さかな。』
『見えないことが僕にとっては普通の状態なんです。(中略)
「もともと持っていたものを失う」のは大変なことなんだろうと思います。
たとえば、もし今、僕の手が動かなくなったら、「ああ、ドラムもう叩けないや」ってものすごい嘆き悲しむんだろうと思うんですよ。だけど、もとから手がない人にとっては、たぶん大したことじゃない。
あったものがなくなると、すごく悲しい。
だけど、もとからなければ、ないはないなりに生きていける。
最近、そんなようなことを考えるようになりました。』
この本を読んでいると
いろんな人がいろんな個性を持っている、
という当たり前のことを、
ごく自然に受け入れることができる気がします。
受け入れるし、受け入れてもらえる。
暗闇には何か、そういう力があるのかもしれません。
ダイアログ・インザ・ダーク
体験してみたい・・・
みなさんの宝物が守られますように。
『